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異世界×トレンド小説連載

# 異世界×トレンド小説連載

 朝のアラームは、いつも通りスマホの通知音で始まった。しかし今朝は、何かが違っていた。枕元のスマホを手に取ろうとした瞬間、僕――ユウタは動きを止めた。
 画面には見覚えのないアプリ。「ISekai Gate」と書かれたアイコンが表示されている。普段なら絶対に入れないような、怪しげな雰囲気だ。それなのに、なぜかインストールされていた。寝ぼけて誤ってダウンロードしたのだろうか。

 リビングに行くと、母さんがパンを焼いていた。壁越しのテレビでは「新世代アプリ特集」が流れている。紹介されているのは有名なSNSやゲームばかりで、「ISekai Gate」なんて聞いたこともない。気になりつつも、朝食をとる手は止まらなかった。

 登校中、どうしてもスマホが気になり、信号待ちの間にそっとアプリを開く。画面には淡い光のアニメーションと「異世界への扉、開きますか?」というメッセージだけが表示された。なんだこれ、冗談か? 
 その瞬間、背筋にぞくりとした感覚が走る。誰かに見られているような気配。何も見えないのに、世界が少し違って見えた。

 昼休み、クラスメイトのシオンが声をかけてきた。「ユウタ、今日元気ないね。スマホ見せてよ、何かあった?」
 「いや、別に……」と言いかけて、ふと思い直す。シオンはクラスで一番トレンドやガジェットに詳しい。もしかしたら「ISekai Gate」について何か知っているかもしれない。

 「実はさ、変なアプリが勝手に入ってたんだ」
 シオンは興味津々でスマホを覗き込む。「これ、見たことない。でも気になるね。押してみようよ」
 「さっき開いたけど、変なメッセージが出るだけだった」
 「イースターエッグとか隠し機能かも?」
 シオンが画面をなぞった瞬間、スマホが震え、僕たちの視界が真っ白になった。

 気がつくと、僕たちは知らない場所に立っていた。目の前には草原が広がり、遠くに奇妙な塔がそびえている。頭が混乱して、言葉が出ない。
 「え、ここどこ……?」シオンが呆然とつぶやく。
 「まさか、アプリで異世界転移……?」
 僕は思わずシオンの肩をつかんだ。

 その時、どこからか声が響く。
 「いらっしゃいませ、ゲートユーザーの皆さま」
 振り向くと、青いローブをまとった少女が立っていた。年齢は僕たちと同じくらいだが、その瞳はどこか機械的で冷たい。
 「あなたたちは選ばれたユーザー。この世界の謎を解き明かしていただきます」
 そう言って、彼女は手のひらに小さな光る石を浮かべる。気づけばスマホは消えていた。

 「ちょっと待って、帰る方法は……」
 「それは、あなたたち次第です」
 少女は微笑んだが、その笑顔には何か裏があるようだった。

 僕たちは訳も分からず、見知らぬ世界で立ち尽くしていた。草原の風、遠くの塔、空には飛竜の影がちらほらと舞う。
 混乱の中、シオンが小さくつぶやく。
 「……ゲームみたいだけど、これ現実だよね?」
 僕は言葉が出ず、ただ頷くしかなかった。スマホも地図も、頼れるものは何もない。

 少女は僕たちに一枚のカードを差し出した。
 「まずは、この“クエストカード”を使ってください。あなたたちの第一歩を応援しています」
 カードには、こう書かれていた。

 『第一の試練:塔のふもとで、運命の鍵を見つけよ』

 シオンが顔を上げる。「やるしかない、か……」
 僕はまだ実感がわかなかった。

 「ねえユウタ、どうする?」
 「……行くしか、ないよな」
 見知らぬ土地へ、僕たちは歩き出した。空にはさっきより濃い飛竜の影。塔の向こうから、何かが僕たちを呼んでいる気がした。

 ――この世界で、僕たちはどこまで進めるのだろう。

■次回予告
塔のふもとで待つ“もうひとりの来訪者”とは?