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先輩の部屋で、ひとつの秘密

# 先輩の部屋で、ひとつの秘密

「まさか、こんなことになるとは……」後輩の拓実は、自分の決断に少し戸惑いを覚えていた。先輩の健二と二人、秘密の同居を始めることになったのだ。

「お前、本当に大丈夫か?」健二は半信半疑の表情で拓実を見つめた。同じ職場で働いていることは知っていたが、プライベートでも一緒に住むことになるとは思いもしなかったのだ。

「大丈夫です! 先輩が声をかけてくれたんですから」と拓実は笑顔を見せた。しかし、その裏には不安が潜んでいることを、健二は何となく感じ取った。

「それなら良いけど、無理はするなよ。俺がいるからって甘えんなよ」と冗談めかして言う健二に、拓実はほっと胸を撫で下ろした。

数日後、二人の同居生活が始まった。初めての晩、二人同時に仕事から帰宅するという新鮮な体験に、少しドキドキしながらも心が弾んでいた。

「今日、何食べる? 俺は軽くカップラーメンでいいけど、お前はどうしたい?」健二がリビングで尋ねる。拓実は少し考えた後、目を輝かせて提案した。

「先輩、料理します! 得意なお味噌汁を作りますから!」拓実は自分の腕前をアピールする。

「ほんとか? じゃあ、期待してるぞ」と健二は微笑んだ。その笑顔に、拓実は思わずドキリとした。健二の優しさを改めて実感した瞬間だった。

キッチンで料理をしながら、拓実は一人の時間を楽しんでいた。健二がリビングでテレビを見ている音が心地よく、少しずつ緊張がほぐれていく。しかし、心の中で何かが芽生え始めているのを感じていた。

「お待たせしました!」お味噌汁をテーブルに並べると、健二が嬉しそうにスプーンを取る姿に拓実の心は満たされた。

「うん、美味い!」健二が思わず笑顔で言った。その瞬間、拓実の心臓が高鳴った。

「本当に? 良かったです!」照れ隠しに微笑みながらも、内心は嬉しさでいっぱいだった。

「これから毎日、お前が作ってくれればいいな」と冗談ぽく言う健二に、拓実は思わず赤面し、「そんなに甘えられるのか?」と驚いていた。

その後、二人の同居は徐々に自然なものになっていった。朝起きる時間も、お互いを気遣いながら調整していく。

「今日は早めに仕事に行くけど、朝ご飯は食べる?」と健二が声をかけるたび、拓実はその温もりを噛み締めた。

「先輩には迷惑かけたくないです」と言いながらも、心の奥底では少しずつ距離が近づいていることに気づいていた。

ある日、夕食後にリビングでのんびりと過ごしていると、話題が自然と恋愛に移っていった。

「お前、好きな人とかいるのか?」健二がふと尋ねる。その質問に、拓実は驚いた。

「えっ、あ、あの……」一瞬戸惑ったが、心のどこかでこの機会を逃したくないと思った。

「先輩のことですか?」思わず口をついて出たその言葉に、空気がピンと張り詰めた。

「お、お前、あれ、ジョークだろ?」健二は一瞬目を丸くしたが、無理に笑おうとしている様子が見えた。その姿に拓実は、心の中で少しだけ希望が膨らんだ。

「本気です! 先輩が優しいから、つい……」告白の言葉が出てしまい、心臓が高鳴りすぎて声が震えた。

「本当に? お前、真面目に言っているのか?」健二の声には少し震えが混じっていた。その様子に、拓実は少しずつ自信が湧いてきた。

「はい。先輩に支えられて、すごく嬉しいんです」と告げると、健二はしばらく黙って考え込んでいた。そして、次の瞬間、彼が微笑み、言葉を返した。

「じゃあ、俺もお前のことが好きだ。だから、これからも一緒にいてほしい。」その言葉に拓実の心は踊った。

「先輩!」と叫びたくなるほど嬉しいが、その瞬間、二人の間には新たな絆が生まれた気がした。

その日から、二人の同居生活は友情から特別な関係に変わり始めた。日常の中に潜む小さなドキドキ感を抱えながら、少しずつお互いを知ることに喜びを覚えていった。

ある晩、拓実がリビングでウトウトしていると、健二が隣に座り、静かに彼を見下ろしていることに気づいた。心臓が高鳴り、思わず視線を外したが、すぐにその視線に気づいて顔を赤く染めた。

「寝てると思ってた?」健二がふっと笑った。

「え、あ、いえ!」拓実は慌てて反応する。

「こんな時間まで起きてるお前が悪いぞ」と健二は冗談めかして言ったが、どこか甘い声色が混じっていた。

「そうですね、すみません……」拓実は少し恥ずかしく思ったが、同時に健二の隣にいることに心地よさを感じていた。

数ヶ月後、二人の関係はより深まった。健二の優しい言葉が、拓実の日常に溶け込んでいた。

「拓実、お前のためにこれ作っておいたから、帰ったら食べろ」と健二が言った時、拓実はその言葉に胸が温かくなった。

「ありがとうございます、先輩! 先輩の料理、好きです!」拓実は心からの笑顔で答えた。

こうして、二人の秘密の同居生活は、少しずつ愛情を深めながら続いていった。無理に関係を進めようとせず、自然に過ごすことが二人の幸せだった。

彼らの愛情は、日々のささいな瞬間の中で育まれ、互いの心の中で深い絆となっていった。そして、ふとした瞬間に感じるその強さが、拓実にとっての一番の宝物になっていった。

そんな彼らの秘密の生活は、まだ終わりを迎えることはなかった。これからも一緒に過ごす日々が続くことに、拓実は胸が高鳴るのを感じていた。

「また、明日も一緒に帰ろうね」と心の中でそっと思った。夕焼けが二人を包み込み、安堵の笑顔を交わして、二人の物語はこれからも続いていくのだろう。