# 秘密の同居
新年度の始まり、桜が舞い散る季節。見慣れた風景が、どこかいつもとは違って感じられた。大学の先輩、勇也(ゆうや)と後輩の海斗(かいと)。この二人の関係は、表面上は変わらないように見えつつも、実は特別なものになりつつあった。
「おい、海斗、また遅刻か?」
窓際で午前の光を浴びながら、勇也は手にしたコーヒーを一口飲む。毎朝の光景だが、心の奥では今日も海斗が早く来てほしいと願っていた。
「ごめん!ちょっと寝坊しちゃって…」
息を切らせて部屋に飛び込む海斗。その表情はだらしないものではなく、むしろ愛らしい。彼は慌てて髪をかき上げ、笑おうとするが、その笑顔に勇也の心は少し震えた。
「でも、君が遅刻するのはもう慣れっこだな」
勇也は微笑みながらコーヒーを口に運ぶ。心の中で、今日一日がどうなるのか期待感を抱いていた。
二人は同居を始めて数ヶ月が経ち、最初はただの生活のためだったが、互いの存在が欠かせないものになっていることを感じていた。
ある夜、リビングで勉強する海斗を、勇也はそっと見つめていた。小さく前かがみになり、真剣な表情でページをめくる彼の横顔は、普段の甘えた雰囲気とは違って、ぐっと大人に見えた。
「海斗、何か手伝おうか?」
勇也の声に、海斗はぴくりと反応した。「ううん、大丈夫だよ。ただ、もう少しで終わりそうだから…」
その言葉は本心のようだったが、勇也は彼の頑張りが少し心配だった。少しでも楽にさせてあげたくて、勇也は静かに海斗の傍に腰を下ろす。
「一緒にやれば、早く終わるかもよ?」
「そう?じゃあ、一緒にやろうかな」
海斗はふっと笑った。その笑顔は、勇也にとって心の安らぎをもたらすものだった。
時間が経つにつれ、海斗の疲れが見え始めた。勇也は何かしたい気持ちを抱えながら、同居生活の中で生まれた特別な空気を楽しむことに決めた。
「海斗、少し休憩しようか。お菓子でも作る?」
「お菓子?それいいね!」
途端に海斗の目が輝く。いつも頑張る彼を少しでも和ませたくて、勇也は心の中で微笑んだ。
キッチンに立ち、二人でお菓子作りを始める。混ざり合う生地の香り、笑い声、時折触れ合う手。まるでこの瞬間が永遠に続いてほしいと願うほど、幸せな時間が流れていた。
「この生地、意外とうまくいってるね」
「本当に?良かった!」
海斗は嬉しそうに頷く。勇也はその素直な反応を見て心が弾む。無邪気な笑顔に少しドキリとした瞬間だった。
「海斗、やっぱり君は美味しいものを作る才能があるよ」
「何言ってるの、先輩の日頃の手料理の方が全然良いよ!」
照れ笑いを浮かべながら、海斗は手を止めて勇也を見つめる。その瞬間、二人の間には何かが生まれかけている気配がした。
「でも、僕なんかより海斗の笑顔が一番だと思うよ」
勇也のその言葉は、まるで決意のように響いた。海斗もそのまま真剣な眼差しで勇也を見つめ返す。お互いの気持ちが交差する瞬間だった。
「先輩、僕も…」
海斗が何かを言おうとしたその時、二人の距離が近づき、勇也は思わず呼吸を止めた。海斗の手を引き寄せた瞬間だった。
「もし、こういう時間がもっと続けられたら…」
勇也は言葉を選びながら、海斗に向けた笑顔に少しの勇気を込めた。
「一緒にいて楽しいから…もっと、仲良くなりたいな」
その瞬間、海斗の表情が変わり、困惑したように目を細める。彼は何かを言おうとしたが、言葉にはできず、その場の空気に浸っていた。
数週間後、二人の同居生活は新たな変化を迎える。勇也は海斗と過ごすことが、どれほど特別な時間であるかを再確認し始めていた。
「ねえ、海斗、これからもこういう時間を続けようか」
勇也は静かに海斗を見つめ、真剣に提案した。海斗は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにその瞬間を受け入れ、微笑んだ。
「うん、これからもずっと一緒にいたいよ」
その言葉は、まるで約束のように響いた。二人の心が確かに近づいていく。その瞬間、彼らは未来を一緒に築いていくことを確信した。
優しい夜が訪れ、同じ部屋で過ごす彼らは、これまで以上に互いの存在を大切にするようになった。日常の些細な瞬間が、普通のこと以上の意味を持ち始めていた。
「じゃあ、また明日ね、先輩」
「おやすみ、海斗」
その言葉を交わすたびに、心が温まり、幸せが広がっていく。
彼らの物語は、まだ始まったばかり。未来には何が待っているのか、それは一緒にいる限り、明るいものになるだろう。余韻を残しつつ、二人は夢の中へと旅立った。