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秘密のリビング

# 秘密のリビング

春の柔らかな日差しが都会の喧騒を包み込み、桜の花びらが舞い散る中、神楽坂智也(かぐらざかともや)は先輩の桐生誠一(きりゅうせいいち)と共に秘密を抱えていた。二人は同じ職場で働く先輩後輩だが、智也のアパートでの同居生活は周囲には内緒のまま始まった。

「誠一先輩、また映画を観るんですか?」智也がリビングでこっそり尋ねると、桐生はソファに横たわり、画面に目を向けたまま微笑んだ。

「ああ、次はこれなんだ。智也も見るか?」

その言葉に智也は少し戸惑った。確かに、一緒にいる時間が増えるにつれ、彼の心は友情を超えた何かを感じ始めていた。流れる映画の中で、智也は誠一の視線を感じる。温かい眼差しは、何でも相談できる先輩のものながら、どこか特別な感情が宿っているように思えた。

「はい、ぜひ…」智也はつい答えてしまった。

静かなリビングに映画のセリフと微妙な間が響く。時折、桐生の手が智也の肩に触れる。その度に、智也の心臓はドキリと跳ね上がる。周囲に知られることを恐れつつも、誠一といる時間が何よりも幸せであった。

ある日の仕事帰り、智也は思い切って先輩に話しかけた。「先輩、僕たちずっとこのままでいいんですか?」不安を抱えながら、自分の気持ちを吐き出す勇気を振り絞った。

「このまま?」桐生は驚いた様子で振り返る。「どういうこと?」

「僕、先輩のこと…特別に思ってます。」智也は顔を赤らめながら言葉を紡いだ。「でも、秘密のままだったら、どうなるんでしょうか。」

桐生はしばらく黙っていたが、やがて笑顔を見せた。「智也、俺もお前のことを特別に思ってる。でも、今は隠れててもいいんじゃないか?こうして一緒に過ごせるだけで、俺は幸せだよ。」

その瞬間、智也は胸の奥が温かくなるのを感じた。桐生の言葉が彼の心に深く響いたのだ。お互いに特別な感情を抱いていることを理解した。

数日後、再び映画を観ていた薄暗いリビングで、桐生が言った。「智也、実はもう少し君と一緒にいたいと思ってる。良かったら、引っ越しをもう少し先延ばしにしないか?」

「え…?」智也は驚き、桐生を見つめた。

「この部屋、一緒に住むのも悪くないと思うんだ。お前との時間がもっと増えれば、嬉しいから。」

「でも、周りには…」

「周りの目なんて関係ない。俺たちがどう思うかが大事だ。」桐生は強い眼差しで智也を見つめ、その心を掴んだ。

緊張感とともに二人の距離が縮まり、智也はうっとりとした気持ちで「じゃあ、もう少し一緒にいましょうか…?」と小さく答えた。

次の日も日常が流れ、仕事を終えたふたりはリビングで一緒に夕食を囲んだ。智也が何気なく「先輩、料理上手ですね」と言うと、桐生は照れくさそうに笑った。

「智也に食べてもらうために、ちょっと頑張ってる。」

その言葉に智也は心が温かくなり、思わず誠一の手を握りしめた。「これからも、一緒に頑張りましょう。」

その瞬間、空気が少し変わった。智也は自分の心が誠一に向かっていることを実感した。桐生もまた、智也の思いをしっかりと受け止めていた。

同居が続く中で二人の距離はますます近くなり、日常の何気ない会話が時折ドキリとする仕草に変わっていった。いつの間にか、互いに対する思いが溢れていた。

しかし、彼らはこの関係を公にするつもりはなかった。秘密のままで、少しの間、この温かい空気感を楽しむことにしたのだ。

「いつか、ちゃんと話そうか。」桐生はある晩、智也を抱き寄せながら囁いた。

「はい、いつか…」智也は静かに答え、彼の胸に顔を埋めた。二人の心は確実に一つの方向に向かっていた。時間はかかるかもしれないが、彼らの秘密はきっといつか、輝く形で外に出るだろう。

その日までの間、彼らはただこの瞬間を大切にしようと心に決めた。誠一と過ごす一日一日が、智也にとって特別であり、甘く優しい余韻で満たされていた。

そして、桜が舞い散る春の日、彼らの秘密のリビングに静かに幸せが根付いていくのであった。