# 同居のスイーツ
「どうして先輩がここにいるんですか?」後輩の直樹は、目の前に立つ先輩の顔をじっと見つめながら問いかけた。彼の視線の先には、先輩の陽介が、彼のアパートの隅に寄りかかっているダンボールに身を任せていた。
「いや、ちょっと助けがほしくて」と陽介は言い訳めいた口調で、無造作に髪をかき上げた。そう、二人は最近、秘密の同居生活を始めたのだ。元々は仕事での先輩後輩の関係だったが、いつの間にか互いに意識し合う距離に近づいていた。
「助けって、荷物運ぶのは一人でもできませんか?」直樹の声には、少し照れくささが混じっていた。陽介の存在が、彼の心に妙な期待感を抱かせていたからだ。
「まあね。でも、君がいると手伝ってくれると思ったんだ。特に、あのスイーツ作りがね」と陽介は冗談めかして言った。彼は直樹が最近、自分に教えるために作ったスイーツを思い出していた。
「スイーツ?」直樹の目が輝く。「先輩、実は僕のスイーツ、まだ焼き方を教わってないですよ?」
「そうだったね。じゃあ、さっそく焼いてみようか」と陽介はニヤリと笑い、直樹の肩を軽く叩いた。
キッチンに向かうと、二人は準備を始めた。直樹が材料を並べると、陽介は「君は本当に真面目だな」と言い、材料を指で数え始めた。
「先輩、言い方変じゃないですか? 真面目なのは、先輩の方ですよ」と直樹が返すと、陽介は慌てて手を挙げて否定した。
「違うよ、俺はバカじゃない(と思う)。ただ、君がいると、俺も少し楽しくなるんだ。それに、君の笑顔が好きでさ。」
直樹は少し赤面しながら、その言葉を受け止めた。彼にとっては甘酸っぱい告白のように感じられ、二人の距離が一層近くなったように思えた。
その日の午後、二人で作ったスイーツが出来上がると、陽介のスマホが鳴った。メッセージには上司からの業務連絡が届いていた。
「こういう時、やっぱり仕事ですよね」と陽介は携帯を見ながら呟いた。その顔には少し寂しさが漂っていた。
「先輩、行かないでください。まだ一緒に…」直樹は目を細めながら言いかけたが、言葉を止めた。彼の中にはもどかしさが渦巻いていた。
「少しだけ待ってて。仕事が終わったら、また来るから」と陽介は優しく微笑み、直樹の頬を軽く触れた。その瞬間、直樹はドキッと胸が高鳴るのを感じた。
「わかりました。待っています」と答えると、直樹は先輩を見送った。陽介の背中が小さくなるにつれ、直樹の心には期待と不安が交錯した。
数時間後、陽介が戻ると、部屋にはスイーツの甘い香りが漂っていた。「お待たせ、直樹。いい匂いだね」と帰宅した陽介は、直樹の作ったスイーツに感心した。
「先輩が好きだって言ったから、頑張って作りました」と直樹が自信満々に言うと、陽介は笑ってそのスイーツを指先で一口味見した。
「おいしい、最高だよ。君は本当に才能がある」と陽介は大げさに褒めた。直樹は、その言葉に嬉しさと照れくささが募った。
二人は夕食を共にしながら、趣味や夢、将来のことを語り合った。笑いが絶えない時間が流れ、いつしか自然と手が触れ合った。
「こうして同居していると、普通の生活も悪くないかもね」と陽介が微笑んで言うと、直樹はその言葉に頷いた。
「本当に、楽しいです」と直樹も笑顔で答える。その夜の空気は、いつも以上に甘いものだった。
そして、やがて夜も更け、二人はそれぞれの部屋に戻った。直樹はベッドの中で、先輩の優しさと少しの大胆さに心を躍らせていた。
「先輩、また明日も一緒にいたいな…」その言葉が、彼の心の中で響いた。
彼は夢の中で、陽介の笑顔を思い浮かべ始める。次の日、また会うことを楽しみにしながら。二人の物語は、まだ始まったばかりだった。
その余韻が静かに、夜の静けさに溶け込んでいく。