# 秘密の同居
「もう少し早く帰れたらよかったのに…」と、佐藤は思わずため息をついた。彼は大学4年生で、今はインターンシップ先の会社で、二つ上の先輩、木村と一緒にプロジェクトを進めている。
「佐藤、遅いね」と、柔らかな声が後ろから響いた。振り返ると、木村はニコッと笑っていて、その笑顔に心臓がドキリと反応する。彼は同期の中でも特に優しく、同じ職場の先輩として何かと気にかけてくれる存在だ。そんな木村と、今まさに秘密の同居をしている。周囲には言えないこともあり、心の中には不安と期待が渦巻いていた。
「そんなことないですよ。今日はちょっと資料が多くて…」と、佐藤は照れくさそうに答えた。
「それでも、頑張ってるね。お疲れ様」と、木村は優しく微笑む。その一言に佐藤は思わず顔を赤らめ、木村の期待に応えたい気持ちと、もっと彼のそばにいたいという思いが強くなった。
「そうだ、明日、うちの部屋で一緒にやらない?資料も落ち着いてできるし、夕飯も作るから」と、木村はさらりと言った。その言葉に佐藤の心臓はさらに早く脈打つ。自分の気持ちが完全に彼に向いていることを認識していたが、木村が自分に興味を持っているのかは分からなかった。
「え、いいんですか?」思わず声が弾んでしまう。
「うん、もちろん。私たち二人とも忙しいから、まともに話せる時間を作りたいなと思って」と、木村は少し照れながら言った。
その日の仕事が終わった後、幸運にも佐藤は木村と一緒に帰ることになった。駅までの道を歩きながら、彼の隣を歩けるだけで心が温かくなる。「ああ、これがもっと長く続けばいいのに…」と考えてしまう。
「どうしたの?佐藤、ぼーっとしてる」と、木村の声が現実に引き戻してくれた。
「いえ、なんでもないです」と佐藤は苦笑いした。実際には彼に対する思いが膨らんでいるのに、正直には言えない。そう思いつつも、心地よいこの雰囲気が続いてほしいと願った。
翌日、木村の部屋に入ると、彼は料理をしていた。キッチンから立ち上る香りは、なんとも言えない幸福感をもたらす。「手伝いますよ!」と、佐藤は急いで声をかけた。彼の後ろに立ち、作業を手伝う。その距離感が心地よかった。
「ありがとう、でも、もうちょっと待っててね。後輩が手伝うなんてどうかと思って」と、木村は笑った。その笑顔に心が跳ね上がる。
「でも、僕も何か役に立ちたいんです」と、思わず真剣な顔をした。
「そう言ってくれると嬉しいな。じゃあ、次はこの野菜を切ってくれる?」木村の指示に従いながら、佐藤は自分の気持ちを伝える良いチャンスだと思った。
「先輩、実は…」言葉を続ける寸前、木村が振り向いた。彼の真剣な眼差しが佐藤の心をつかみ、言葉が出てこなくなってしまった。
「どうしたの、佐藤?」その問いに思わず目を逸らしてしまう。
「なんでもないです…」言葉を飲み込み、心の中にしまっておくことにした。先輩としての関係であってほしいとの思いもあった。
夕食を終え、肩を寄せ合ってソファに座る。二人だけの時間がどんどん甘くなっていくのを感じる。「木村先輩、やっぱり好きです」と言った瞬間、彼の目がキラリと光った。
「いや、俺も佐藤のことが好きだよ。後輩という以上に、大切な存在なんだ」と、木村が言った。その言葉に佐藤は驚き、同時に心がパッと明るくなる。
「え、本当ですか?」思わず嬉しくて声が高くなった。
「本当。でも、これは秘密だからね」と、木村は笑顔で言った。
いつの間にか外は暗くなり、月が美しく輝いていた。静かな夜の中で、二人の心が少しずつ近づいているのを感じる。秘密を共有することで生まれた絆は、これからどんなふうに深まっていくのだろう。心地よい期待感を抱えながら、二人は明日へと向かう。
「また明日も、こうして一緒にいられますか?」佐藤のこの言葉に、木村は温かい笑顔で頷いた。
静かな時間が流れ、二人の間には新たな物語の始まりがあった。