# 再会の匂い
春の訪れとともに新しい学期が始まる。学校の校舎は、薄緑色の桜の葉に覆われた広い庭を見下ろし、若者たちの笑い声で賑わっていた。その中に彼、佐藤光(さとうひかる)がいた。初めての高校生活に胸を躍らせながら、彼は横顔を細め、未だ見ぬ未来に思いを馳せていた。
「おい、あれ見て!新しい転校生らしいよ!」
友人の田中(たなか)が興奮した様子で指を指す。光の心臓が跳ねた。管理棟の前に立つ一人の男子。彼の黒髪はすらりとした姿を引き立て、ほんのりとした笑みが印象的だった。
「まさか…。」
光の心の中で、懐かしい記憶がざわめく。幼少期の思い出が鮮やかに蘇り、トキメキの感情が胸の内に広がった。
「うそ、玲(れい)なの?」
彼の幼馴染、天野玲は北海道から引っ越してきた。かつてはいつも一緒に遊んでいた夏の日々が思い出され、光は喜びと不安が交錯するのを感じた。
「佐藤君、こちらです。」
玲が微笑みながら声をかける。光は心臓が大きく跳ね、返事をする前に笑顔を作った。あの頃と変わらない、けれどどこか大人びた表情が新鮮だった。
「玲、久しぶり。」
「久しぶり!まさか同じ高校になるなんて!」
玲の瞳が輝く。光はその様子を見て、心が温かくなる。この瞬間、彼の思いは再び燃え上がった。
「教室、行こうか。」光は照れくささを隠すように言葉を続けた。玲は頷き、二人は一緒に歩き出す。
教室に入ると、友人たちの歓声が響く。光は周りを見渡しながら、玲へ目をやる。少し困ったように微笑む彼に、思わず心が跳ねた。
「このクラス、友達になるの簡単そうだね。」玲が無邪気に声を上げる。
「そうだな。でも、まだ俺には一番の友達がいるから、安心だよ。」光も少し照れながら応じた。それが、自分の気持ちを掻き立てる一歩になったのだ。
数日後、特に親しかった二人は昼休みに図書室で過ごすことが多くなった。静かな場所で本を手に取りながら、光は玲と無邪気に話す時間が何よりも幸せだった。
「光、これ面白いよ!」玲が本を持ち上げ、目を輝かせる。
「え?どんな話?」光は興味津々で近寄る。
「恋愛ものなんだけど、すごく感動的で…。」
その瞬間、光は自分の心も恋愛と同じような感情で揺れ動いていることに気づいた。胸がどきどきし、恥ずかしさを感じた。
ある日の放課後、二人は教室の後ろで話していた。話が盛り上がり、気づけば時間が経つのも忘れてしまっていた。
「ねえ、光…。俺、少し大事なことを話したいんだけど…。」
玲が真剣な表情で話し出すと、光はどきりとした。彼の心はざわめき、緊張が走る。
「何?言ってみて。」
その瞬間、長い沈黙が続いた。玲は一瞬ためらい、そして言った。「俺、光のことが好きだ。」
その言葉が耳に届いた時、光は不意に胸が熱くなり、言葉を失った。やがて小さく頷くと、心の中の気持ちが一気に弾け飛んだ。
「俺も、玲が好きだよ。」
玲は驚いたように目を大きく見開いたが、その後、安心したように微笑んだ。二人の心が寄り添う感覚が、周りの空気を温かく包み込む。
「これからまた一緒にいようね。」玲の言葉に、光は力強く頷いた。
廊下の明かりが夕暮れの柔らかさに変わり、心を躍らせながら二人は教室を後にした。彼らの絆が新しい季節の中で深まっていくことを、胸の奥で確かに感じていた。
その瞬間、青空に浮かぶ雲のように、二人の世界がゆったりとした余韻を残し、明日へと続いていく希望が見えた。