小説

秘密の白衣の恋

# 秘密の白衣の恋

「また遅刻ですか? 先生、時間にルーズすぎますよ」

透(とおる)が苦笑すると、後ろから聞き慣れた声が響いてきた。振り返ると、朝の光に映えるピンク色のナース服を着た佳奈(かな)が立っている。彼女は透の後輩であり、密かに彼が気にかけている存在だ。

透は内科医として病院で働いているが、時折忙しさに流されて遅くなることがある。それに対して佳奈は、しっかり者で真面目な性格なので、こうして彼の遅刻を責めるのが日常の一部となっている。

「ごめん、急な患者さんが来てね。次はちゃんと送るから」と透が言うと、彼女は頬を膨らませる。なんとも愛らしい仕草だ。

「本気ですか? またまた適当なことを…」

「本当だって、Line送るから」と透は笑顔を返す。

彼女がその言葉を信じるかどうかは、一目瞭然だった。信じたい気持ちと半信半疑な気持ちが交錯している。透はその反応に少しそわそわし、実は彼女の可愛らしさが心を揺さぶるのだ。

佳奈は透の目をまっすぐ見返し、思わず言った。「本当に責任取れますか?」

「もちろん。佳奈のお願いだからね」と透は軽い冗談を交えた。彼女の視線を感じ、その瞬間、何かがふわりと舞い上がる。

その日、二人はいつも通りの業務を終え、ふとした瞬間に話し込むことになった。透は佳奈が自分のことをどう思っているのか、彼女の小さな反応にときめきながら、ますます興味が募っていく。

「ところで、佳奈。最近いい映画があったんだけど、君も見たいかな?」透が軽く尋ねると、彼女の瞳がキラリと光った。

「本当ですか! 見たいです!」

気がつけば、二人の距離は少しずつ縮んでいった。まるで周囲の音が消え、彼らだけの小さな世界が生まれたかのようだった。

「じゃあ、今度の休みにでも行こうか?」

その一言に、佳奈の顔はぱっと明るくなり、期待が彼女の心に広がるような表情を見せた。透の心臓もドキンと鳴った。

それから、二人の関係は少しずつ変わり始めた。休みの日が近づくにつれ、佳奈との会話も増え、お互いの存在が大きくなっていった。

ある日の診療後、透はふと佳奈に目をやる。目の前で書類を整理している彼女の姿はとても魅力的だった。その瞬間、透は思わず声をかけた。「佳奈、手伝う?」

「いいえ、先生はお疲れでしょう。休んでいてください」と佳奈が微笑む。彼女のその微笑みが透の胸を締め付けた。

「でも、一緒にいたいな」とつい言ってしまう。

その言葉に、佳奈の表情が少し赤らんだ。彼女の視線がぼやけるのは、言葉の意味を理解したからか、それとも照れ隠しなのか。

「じゃあ、少しだけ一緒にいても…」佳奈が声を低くし、恥ずかしそうに続けた。

その瞬間、透はさらに心を揺さぶられた。彼女の言葉は、これまでの会話とは確実に違っていた。二人の心の距離が一気に縮まった瞬間だ。

ある日、帰り道に二人は並んで歩いていた。日が沈みかけ、周囲がオレンジ色に染まる中、透はこの心地よい距離感をもっと大切にしたいと思った。

「佳奈、これからも一緒にいられたら嬉しいな」と無意識に口にする。

すると、佳奈は少し立ち止まり、透の顔をまっすぐ見つめ返した。「私もです。先生といると、楽しいことがたくさんあるから」

その瞬間、透の心は高鳴り、同時に彼の心の奥にあった「特別な感情」がふわっと顔を出した。

「それなら、今度の休みに映画館だけじゃなく、他の場所も考えてみようか」と提案すると、佳奈は素直に賛同した。しかし彼女の表情にはわずかな不安が見え隠れしていた。

待ちに待った約束の日、映画の後、透は佳奈の顔を見て「良ければ、もっと一緒に過ごさない?」と唐突に提案した。

「えっ、ど、どこへ…?」

不安を隠しきれない佳奈だが、期待も混じっているようだった。透はその瞬間、彼女を抱きしめたい衝動に駆られたが、慎重さも併せ持っていた。

「ただ、一緒に何かを見つけたいだけ」と透は微笑んで言った。

「先生、それは…」

その後、二人は様々な場所を巡った。楽しい話に笑い合う中、二人の間には今まで感じたことのない温かい空気が流れていた。少しずつ、二人の関係は確実に深まっていた。

そして、透が思い切って言った。「佳奈、君が好きだよ。君と同じ時間を過ごしたいんだ」

その瞬間、佳奈は急に無言になり、ただ驚いた表情を浮かべている。言葉の重みが二人の心に響く。

「そんな、私も先生が好きです。でも、どうすればいいのか…」

「一緒にいることで、答えは見えてくると思うよ」

その後も二人はお互いに意識しながら、距離を持ちながらも少しずつ近づいていった。明らかになった気持ちが、二人の間に流れる心地よい空気を作っていた。

透は佳奈に手を差し出した。「一緒にこのまま歩いていこう。急がずに、少しずつ」

夕焼けが二人の心に深い印象を残し、愛おしさと少しの緊張感が入り混じった状態で、彼らは静かにその瞬間を味わった。

永遠ではないけれど、この小さな幸せが二人の心に刻まれ、次の展開を待っているようだった。お互いを見つめ、未来の生活を夢見ながら、二人は新たな一歩を踏み出すのだった。