# 秘密のひだまり
春の日差しが差し込む午後、田中家のリビングには心地よい温もりが漂っていた。二階の部屋からは、弟の悠太がかすかな声で歌を口ずさんでいる。年の離れた兄、真司は、その声を聞きながら微笑まずにはいられなかった。彼にとって、悠太はただの弟ではなく、特別な存在だった。
「悠太、今日は何を作るの?」
真司はキッチンで料理の準備を進めながら声をかけた。共に暮らすようになってから、食事の時間は楽しみのひとつとなった。悠太はいつも元気で、その明るい笑い声が家中に響き渡る。
「今日はね、パスタを作るよ! 兄ちゃん、手伝って!」
悠太の声は小鳥のさえずりのようだ。真司はその返事に心が和むのを感じた。部屋に入ると、悠太は嬉しそうに目を輝かせている。
「本当に? 兄ちゃんの作るパスタは最高だよ!」
悠太はそう言って真司の横に並ぶ。二人で並んで料理をする時間が何よりも大好きだった。互いに口を動かしながら手も動かし、笑い合う。悠太の料理は決して上手とは言えないが、真司にとってはそのすべてが特別だった。
「これ、こうやって入れるのがポイントだよ。」
真司は少しだけ手を添えて、悠太の料理を手伝う。悠太の手元を見つめると、自然と心が弾む。
「兄ちゃん、もっと教えてよ!」
悠太は無邪気な笑顔で顔を近づける。その瞬間、真司の胸が高鳴った。年の差を感じさせない彼の純真さに、真司は思わずドキリとする。
「うん、でもその前に、味見しないとね。」
真司は悠太の頬に軽く触れると、パスタを一口運んだ。悠太は期待の目を向け、真司は優しく微笑む。
「おお、これはかなりいい味だよ! さすが、悠太の腕も上がったね。」
「ほんと? やった! 兄ちゃんに褒められると嬉しいな。」
悠太の頬は赤く染まる。二人の間に流れる静かな瞬間に、真司は思わず目を逸らせなかった。悠太の存在は、兄弟以上の感情をもたらしてくれる。
「でも、これが完成したら、もっともっと美味しくなるから!」
悠太は嬉しそうににっこりと笑う。真司はその笑顔が心の中に深く刻まれるのを感じた。
数日後、家に帰ると、悠太はいつもと違った表情で真司を待ち受けていた。何かがあると感じた真司は、不安を抱えながらその瞬間を待つ。
「兄ちゃん、ちょっと話したいことがあるんだけど…」
悠太の声は少し震えていた。真司はその表情を見て、心配になる。
「何かあったの? いつでも話していいよ。」
悠太は真司を見つめ、決心したように口を開く。
「実は…、兄ちゃんに言いたかったことがあったんだ。」
彼の言葉は真司の心に重く響いた。兄弟としてではなく、もっと深い関係を望むことは許されるのだろうか。葛藤が胸の中で渦を巻いていた。
「俺、兄ちゃんが好きなんだ。」
悠太の告白は真司の心に衝撃を与えた。言葉にされると、それまで抱えていた感情が一気に氷解していく。真司は思わず、悠太を見つめ返す。
「俺も、悠太が好きだよ。」
その言葉に悠太は目を大きく開き、一瞬の静寂が訪れた後、顔を赤らめて微笑んだ。心の距離が一気に縮まった瞬間だった。
「じゃあ、これからはもっと近くにいよう?」
悠太の提案に真司は頷く。彼は悠太の手を優しく包み込む。その温もりが全身を駆け抜け、愛しい瞬間となった。
「うん、ずっと一緒にいよう。」
その瞬間、二人はふと目が合い、心の中に温かい感情が広がる。真司は、悠太の笑顔がもっと見たくて、彼の手を握ったまま静かな余韻を楽しんだ。
数ヵ月後、二人は職場の仲間にも気付かれぬよう、秘密の関係を築いていた。時には冗談を交え、時には真剣な眼差しで互いを見つめる。
「兄ちゃん、これからも一緒にいてくれる?」
ある夜、悠太が真司に尋ねた。月明かりが彼の顔を優しく照らしている。
「ずっとだよ、悠太。」
真司の言葉に、悠太は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見て、真司はこの関係がずっと続くことを願っていた。
二人の心が共鳴し合う温かな時間が、これからも重なり続くことを感じさせる静かな余韻を残し、彼らの物語は静かに幕を閉じた。