小説

秘密の同居は甘い罠

# 秘密の同居は甘い罠

春の陽射しが心地よい午後、黒須は自分の部屋の窓を開けた。新しい季節に心が軽やかになるこの時期、彼は先輩の井上と秘密の同居生活を始めたばかりだった。二人の関係は、単なる先輩と後輩という枠を越えつつあった。

「窓を開けるなら、ちょっと気をつけて。花粉が飛んでるから」

井上の声が響く。彼は黒須の部屋に入った途端、鼻をくすぐる花粉に眉をひそめた。黒須は思わず笑った。井上はいつも健康を気にかける真面目な先輩だが、その姿がまた彼の魅力でもある。

「大丈夫だよ、今日はいい天気だから、洗濯もしたいし」

「その調子で、洗濯物は部屋に干さずに外に出してね」

井上は黒須の頬を軽く叩いた。その仕草に、黒須は微かに赤面する。いつもと変わらないはずなのに、心拍はドキドキと拍車がかかる。

「はい、承知しました、井上先輩」

「その呼び方、もう少しカジュアルでもいいのに」

井上は黒須の肩を軽く叩き、どこか照れたように笑った。二人はこの小さな部屋で、一緒にいることに戸惑いながらも、次第に自然体になっていた。

「そういえば、夕飯どうする? 私が作ってあげる?」

井上がふと思いついたように提案する。黒須は一瞬驚いたが、すぐに嬉しくなった。

「本当ですか? でも、先輩の料理は…味付けが少し不安なんですけど」

「何それ! 私の料理、結構評判いいんだから」

井上は苦笑いを浮かべた。そんな彼を見て、黒須は思わず笑いだす。

「じゃあ、期待しています。ちなみに、今から何を作るつもりですか?」

「何か適当に。そうだ! カレーとか」

「カレー、いいですね。具材、買い出しに行きましょうか?」

井上は頷く。「行こう!」

こうして二人は近くのスーパーへ向かう。夕日が沈む頃、店内はどこか楽しさで満ちていた。

「あ、これ美味しそう!」

黒須が指さした食材に井上は頷いた。「あ、それもいいね。じゃ、これも一緒に買っちゃおう」

見た目とは裏腹に、井上は意外とカレーの具材選びに夢中になっていた。その笑顔を見て、黒須の胸が温かくなる。

「先輩、今日は本当にありがとう。こうして一緒にいるのが、すごく楽しいです」

井上は一瞬驚いたように顔を上げ、「私も、こうして過ごせるのは嬉しいよ」と言った。言葉の裏には、少し照れくさい気持ちが見え隠れしていた。黒須はその瞬間を逃すまいと、心の中で何かが変わる予感を感じた。

夕食の準備が始まると、二人はキッチンで重なり合うことが多くなった。料理が進む中、自然に肩が触れ合う瞬間が増え、心の距離も近くなっていった。

「黒須、これ切ってくれる?」

井上の声がかかる。その時、黒須の手元が少し滑り、包丁がカウンターを叩く音がした。井上は振り向いた。

「大丈夫?」

「はい、ちょっとだけ」

こうしたさりげない会話が、二人の関係を強固にしていく。ふと、井上の手が黒須の手に重なった瞬間、二人は目を合わせた。時間が止まったように感じた。

「お、お先に失礼します!」

井上が恥ずかしげにその場を離れると、黒須はほんのり頬を染めた。心臓が跳ねる。あの瞬間に何かが生まれたような気がした。

数日後、その気持ちが高まったある夜、二人はソファに座って映画を見ていた。緊張した空気が漂う中、井上がふと、「黒須、最近はちゃんと話せてると思う?」と口を開いた。

「うん、先輩といる時は、自然に会話が弾むからすごく楽しい」と黒須は答えた。

その言葉に井上は嬉しそうに微笑んだ。「そう言ってもらえると、嬉しいよ」

そんな和やかな空気の中、井上は少しずつ心の距離を縮めようとしていることに気づいた。黒須はその思いを受け止めながらも、自分の気持ちに正直になれないまま、微妙な状態が続いた。

「秘密の同居は、思ったよりも楽しいね」と黒須が言うと、井上は軽く笑った。「今ここにいるのが、私たちの特別な時間だから」

その夜、黒須は井上の言葉を頭の中で反芻しながら眠りについた。次の日も、特別な時間が続くことを密かに願いながら。

月日が流れ、少しずつ距離が縮まった二人。ある日、井上が言った。「黒須、あなたがいることで、私も支えられてる。これからも、ずっと一緒にいたい」

その言葉に黒須は心臓が高鳴った。何かが確信に変わった瞬間だった。そして、黒須も意を決して言った。

「僕もです、井上先輩。ずっと一緒にいたいです」

その言葉は、温かい余韻を残し、二人の関係をより深めるきっかけとなった。静かな夜、二人は同じ空間を分かち合いながら、甘い時間を過ごしていた。

こうして、秘密の同居はいつしかお互いの心を支える大切なものになっていった。終わりが見えないその日々の中で、甘く、心地よい余韻を楽しむ二人の姿があった。未来は明るく、いつまでも続くように感じられた。