小説

幼馴染の距離

# 幼馴染の距離

春のやわらかな日差しが、校庭の桜の花びらを舞い上げる。高校二年生の秋人は、いつものように放課後の教室に残っていた。机の上には教材が散らばり、彼はぼんやりと窓の外を眺めていた。ふと、視線を感じて振り返ると、幼馴染の優斗が教室のドアに立っている。

「まだ勉強してるの?」優斗はにこりと笑う。その笑顔は、秋人の心を温かくする。

「まあね、少しだけ。君も、まだ帰らないの?」秋人は机を片付けながら尋ねる。優斗は首を振った。

「友達と遊ぶ約束があるから。」優斗の言葉に、秋人の胸がざわつく。自分たちの関係は、いつも一緒だったのに、少しずつ変わっていく気がする。

「もしかして、あの子たちと遊ぶの?」心の奥で嫉妬の感情が湧き上がるのを感じた。

「うん、楽しいと思うよ?」優斗が無邪気に笑う。秋人は優斗に抱く特別な感情に気づくが、それを口に出す勇気はなかった。

「いいな、楽しんできてね。」秋人の声は少し冷たく響いた。優斗は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかい笑みを返す。

「ありがとう。でも、秋人も無理しなくていいから。」優斗の言葉に、秋人は何かを言おうとしたが、言葉が喉に詰まる。

二人の心の距離は、微妙に開いていく。秋人は、自分の素直な気持ちを優斗に伝えられず、もどかしさを感じていた。優斗はそのことに気づいているのかいないのか、変わらない優しさで接してくる。

放課後の教室には、他の生徒たちの声が遠くから聞こえてくる。優斗は教室を見回し、秋人の隣に座る。ふんわりとした空気が二人の間に流れ、秋人の心は少しだけ落ち着いた。

「最近、何か悩んでることがあったら、話してもいいよ?」優斗が真剣な表情で言う。その言葉は秋人の心を掴む。

「悩みなんてないよ。ただ、ちょっと考え事をしてただけ。」秋人は優斗の視線を避けた。そんな自分が情けなく思えてくる。優斗は秋人の様子に何かを感じ取ったようだった。

「じゃあ、また遊ぼうよ。次の休み、二人で出かけない?」優斗の提案に、秋人は目を輝かせる。しかし、心のどこかで躊躇いがあった。

「いいけど…他の友達も呼んでもいい?」その言葉には、優斗への気遣いがあった。秋人は特別な意味を持たせたくなかったのだ。

優斗の笑顔が、わずかに寂しそうに見えた。「もちろん、いいよ。みんなで楽しめた方がいいもんね。」

その言葉を聞いて、秋人の心はまた揺れ動く。自分の気持ちを押し殺すことが、どれほど難しいかを痛感した。

数日後、秋人と優斗は他の友人たちと遊びに出かけた。その日は楽しく笑い合い、互いの距離を一瞬でも縮めたように思えた。しかし、秋人の優斗への特別な感情は、ますます強まるばかりだった。

帰り道、秋人は優斗に言おうかどうか迷っていた。かすかな心の声が、優斗に自分の思いを伝えた方がいいと囁いていた。

しかし、その瞬間、優斗が「また遊びたいな」と無邪気に言ったことで、秋人は心の決断を再び先延ばしにしてしまう。

「僕も、また行きたいよ。」笑いかける秋人の心には、もどかしさが残ったままだった。

放課後、優斗は校門の前で秋人を待っていた。「ねえ、秋人。実は、いつも一緒にいるけれど、もう少し特別な関係になれたらいいなって思ってるんだ。」優斗の言葉は、秋人の心にまっすぐ突き刺さる。

「優斗……」秋人は言葉を紡ぐことができず、ただ優斗の目を見つめる。そこには優しさと期待が色濃く映し出されていた。

秋人は深呼吸をし、自分の思いを吐き出す準備をした。「実は、僕も……優斗のことがすごく大好きなんだ。」

その瞬間、優斗の顔がパッと明るくなった。「本当?じゃあ、もっと一緒にいよう!」

二人の間に流れる甘い空気が、さらに強く感じられた。優斗の言葉が秋人の心を温かく包み込む。気持ちが通じ合ったことで、二人の距離は一気に縮まった。

しかし、そのすぐ後に、秋人の心には新たな不安が差し込んでくる。優斗の笑顔がいつの間にか恐れを抱かせる。自分が優斗に与える影響を考えると、優斗を傷つけてしまうのではないかという思いが秋人の胸を締め付けた。

「今後も、二人でいる時間を大切にしていこう。」優斗の言葉が、秋人の心の曇りを少しだけ晴らす。

こうして、二人は少しずつ特別な存在へと進化していった。仲間たちとの時間も大切にしながら、秋人は優斗との関係を大切に育んでいくことを心に決めた。

学校の季節が移り変わる中で、秋人は優斗と共に過ごす時間の素晴らしさを実感していた。そして、思春期の心のすれ違いやもどかしさを乗り越え、一歩踏み出す勇気を持つことができた。

心の中に抱えた感情が、少しずつ芽生え始めていた。これからの未来に、どんな形で繋がっていくのかは分からない。しかし、二人の関係は新しい一歩を踏み出したのだ。

桜の花びらが舞う春の日、その余韻が二人の心を包み込み続ける。