# 秘密の同居、先輩と後輩
――仕事のストレスに疲れ果てたその日、春野はふとした瞬間に先輩の家へ逃げ込むことにした。同じ会社の上司、高橋のアパートだ。まさか彼がここに住んでいるとは知らなかった。彼との同居が始まったのは、友人の何気ない一言がきっかけだった。
「先輩、このアパートには空いてる部屋があるんですけど……どうですか?」
高橋は視線を上げ、春野の目をじっと見つめた。
「お前が住むのか?」
その提案は、互いに気遣いと少しの緊張感を生んだ。高橋は優しい先輩だが、時折真面目な眼差しに春野の心を掴む不思議な魅力があった。
「はい、先輩の近くにいられたら心強いですし……」
春野は軽いノリで言ったつもりだったが、高橋は少し驚いたような表情を見せた。それから数日後、春野は新しい生活を始めることになった。
同居が始まった二人は、お互いの生活スタイルを少しずつ見せ合った。食事の際、春野は高橋がバターを使ったポテトサラダを作るのを見て、思わずニヤリとしてしまった。
「春野、お前は何か手伝うことがあるか?」
「料理は得意じゃないですけど……皿洗いならできます!」
高橋は微笑みながら皿を手渡す。その瞬間、春野は心臓が高鳴るのを感じた。
「最近、仕事の方はどうだ?」
高橋の声が優しく響く。春野は真剣に考え始めた。
「まぁ、悪くはないんですが……ちょっと忙しすぎて体力が追いつかないです。」
「そうか。でも、無理はするなよ。」
その一言が、春野の鼓動をさらに早くさせた。高橋の気遣いは、自分に向けられた優しさとして響いた。
ある夜、二人がリビングで映画を観ていた。明るいコメディ映画だが、春野は目の前にいる高橋の温もりに意識が向いていた。高橋は無邪気に笑っている。
「先輩、そんなに笑って、面白いですか?」
「お前が真面目な顔をしているから、余計に面白い。」
高橋の言葉に春野はドキッとした。彼の目が、自分をじっと見つめているからだ。
「先輩、私って、すごく楽しませる存在なんですか?」
「もちろん。お前といると、些細なことで笑えるからな。」
その言葉を受けて、春野は嬉しくも意外な気持ちに包まれた。
日々が経つにつれ、春野は同居を始めたことが新たな意味を持ち始めていた。高橋との距離が縮まるにつれ、彼の存在が自分の心の中で大きくなっていくのを感じていた。毎晩映画を観るのが二人の恒例となり、お互いの心の中の小さな秘密を少しずつ明かしていった。
そんなある晩、映画が終わった後、春野が思わず口を開いた。
「先輩、私たちって本当に仲良しですよね。」
高橋は驚いた様子でこちらを見つめた。
「仲良し、というか……特別な関係になりかけている気がする。」
春野はその言葉にドキリとし、自分の心がどきどきするのを感じた。
「えっと……私、気づいてしまったんです。」
高橋は真剣に春野の言葉を待っていた。
「前は先輩のことが好きだなんて思わなかったけれど、今は、もっと知りたいと思っています。」
「俺も、お前のことが知りたいと思っている。」
その瞬間、静かな空気の中で、互いの心の距離が少しだけ縮まったように感じた。春野は高橋の目を見つめ返し、特別な瞬間が存在することを実感した。自分の中に隠されていた気持ちが少しずつ外に出てくるのを感じ、そんな瞬間を共有できることが何よりも嬉しいと思った。
「先輩、これからも一緒にいてください。」
高橋はほんの少し頷いた。
「あぁ、もちろんだ。」
彼らの間に流れる空気が甘く、温かく感じられた。日々が彼らを少しずつ近づけていく。
そして、ある日の仕事帰り、春野は高橋と肩を並べて歩いていた。
「先輩、ちょっと近くないですか?」
高橋は余裕の表情で返した。
「お前が近いからだ。」
「ふふ、違いますよ、先輩がいつも私の近くにいるからです!」
高橋は微笑みながら歩みを速め、春野はその背中を追いかけた。これからの関係がどうなるのかは分からないが、春野の心の中には確かな想いが芽生え続けていた。
二人は新たな未来を心待ちにしながら、足音を響かせて歩き続ける。優しい秘密が、彼らの心の中で一つ、また一つと積み重なっていくのだった。