# あの約束、忘れないから
春の陽射しが優しく差し込む教室。窓辺では桜の花びらが舞い、外からは子供たちの楽しげな声が響いている。そんな中、悠斗はデスクに突っ伏し、深いため息をついた。
「またテスト勉強?悠斗、いつもそんなことばかりしてるね。」
後ろから聞こえた声に、悠斗は思わず顔を上げた。目の前には幼馴染の壮真が立っており、彼は悠斗の苦悩を心配するように、片方の眉を少し上げている。
「勉強じゃなくて、現実から逃げたいだけだよ。」
悠斗は苦笑いを浮かべながら答えた。壮真はそんな悠斗の姿に、少し戸惑いを隠しきれなかった。幼馴染だからこそ、悠斗の気持ちを理解したいと思うが、言葉が足りないのだ。
「そんなこと言うなよ。勉強しないと、未来が無くなるぞ。」
「未来って……それを決めるのは自分だよ。」
悠斗は少し声を強めた。壮真は一瞬驚いた様子で、悠斗の瞳をじっと見つめた。その視線が心に響き、何かを言うことがためらわれた。
「そんな大人っぽいこと言わないでさ、悠斗っていつも真面目だよね。」
壮真の無邪気な笑顔が、少しだけ悠斗の心を和ませた。彼の気持ちも理解しているからこそ、悠斗は笑い返す。
「真面目って言っても、勉強は本気でやらないと自分に嘘がつけなくなるんだ。」
「でも、楽しいことも大事だぞ。さっきの約束、覚えてる?」
壮真が話を変えると、悠斗は少し暗くなった教室の空気に再び暖かさを感じた。
「約束?ああ、あの時のこと?」
「そう!あの時、二人で決めたじゃん。高校に進学したら、一緒にバカやろうって。」
悠斗はその言葉を聞いて、ふと記憶の中の約束の瞬間を思い出した。小学校の運動会前夜、二人は星空の下で手を固く握り合い、ずっと一緒にいると誓った。懐かしい思い出が、今目の前にいる壮真の姿に重なった。
「でも、壮真はずっとサッカー部で忙しいし、結局そんなことできないんじゃない?」
悠斗は少し皮肉を込めて言ったが、壮真は反抗するように笑った。
「それでも、たまには時間作るよ。約束だから!俺、悠斗と一緒にいると楽しいし。」
その瞬間、悠斗の心の中で何かが弾けた。壮真と一緒にいることが、どれほど特別で大事なことなのか、改めて気づく。
「そうだね、楽しいことがあれば頑張れるかも。」と、悠斗は素直に答えた。
二人の距離が一気に縮まる。悠斗は、壮真の目に映る自分が、いつも以上に特別な存在になっているのではないかと感じた。心の奥に温かいものが広がる。
「それじゃ、今週末にでも約束を果たそうか?」と壮真は提案した。
「いいよ。でも、何をする?ただ遊ぶだけじゃつまらないし。」
悠斗は挑戦的に言い放つ。壮真は一瞬考え込んだ後、何かを思いついたように目を輝かせた。
「じゃあ、夏祭りに行こうよ!屋台で食べまくって、花火を見よう!」
悠斗の心に、少しのわくわくが広がった。夏祭りの華やかさと壮真との楽しみが重なり、心の柔らかい部分が刺激された。
「それは、いいアイデアだね!」悠斗も思わず笑みを浮かべた。
壮真は嬉しそうに頷く。「なあ、子どもの頃に戻ったみたいだ。」
「そうだね、ちょっと甘酸っぱい青春の味みたい。」
教室の空気が和やかに包まれ、二人の間に流れる時間が心地よく感じられた。互いの視線が交わるたびに、心の奥で小さな火花が弾けているようだった。
「いつか、一緒に行った夏祭りのことを振り返ったら、懐かしくて涙が出るかもな。」
悠斗の言葉に、壮真は少し照れくさそうに笑った。彼がそれを聞いて、心のどこかが温かくなる。この瞬間がずっと続くように願った。
「そうだな。お互い、大人になったら、見返す思い出になるだろうな。」
時が止まったような感覚で、彼らはただ笑い合っていた。しかし、少しの不安も隠しきれず、互いに見えない距離を感じる瞬間があった。それを口にする勇気はなかったが。
学校のチャイムが鳴ると、悠斗と壮真は立ち上がり教室を後にした。その背中には、少しずつ大人になっていく心のもどかしさが映っていた。
「行こう、夏祭りの約束を果たしに。」
悠斗と壮真は、現実の中で再び手を取り合った。心の中には少しの甘さと、未来への期待が詰まっていた。
余韻を残しながら、ふたりの夏祭りは始まる――。